「腹側迷走神経」と「背側迷走神経」

今回は腹側迷走神経背側迷走神経の違いについて、わかりやすく詳しく解説します。

🧠 ポリヴェーガル理論における「2つの迷走神経」

私たちの自律神経は、単純に「交感神経=緊張」「副交感神経=リラックス」とは限りません。
ポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)では、副交感神経の中にも2つの系統があるとされています。
この理論を提唱したのが、米国の神経生理学者 スティーブン・ポージェス博士 です。


🔹1. 背側迷走神経(Dorsal Vagal Complex:DVC)

▪ 起源

古い脳幹の部位に由来する「原始的な」迷走神経です。
魚類や爬虫類などにも見られる神経系で、人間では生命維持の最低限の働きを司ります。

▪ 働き

背側迷走神経は、極度のストレスや恐怖を感じたときに活性化し、体を“シャットダウン”モードにします。

  • 動けなくなる(フリーズ)
  • 血圧や心拍数が低下
  • 胃腸の働きが止まる
  • 無力感、放心状態、解離感

たとえば、動物が天敵に捕まったときに“死んだふり”をする反応。
あれがまさに背側迷走神経による防御反応です。

人間でも、強いトラウマや過度なストレスが続くと、「何もやる気が出ない」「感情が凍ったように感じる」などの状態が起きます。
それは“心のシャットダウン”ともいえる、背側迷走神経の過剰反応です。


🔹2. 腹側迷走神経(Ventral Vagal Complex:VVC)

▪ 起源

比較的新しい神経系で、哺乳類に特徴的なシステムです。
社会的なつながりや安全感を感じるときに働く神経です。

▪ 働き

腹側迷走神経は、「安全」や「安心」を感じたときに活性化し、
体を“リラックス・回復モード”に導きます。

  • 心拍数が落ち着く
  • 呼吸が深くなる
  • 表情が柔らかくなる
  • 声のトーンが穏やかになる
  • 他人との共感やつながりを感じる

たとえば、信頼できる人と話していて安心する、動物や子どもを見て心が和む、施術中に「手があたたかくて気持ちいい」と感じる――
それらは腹側迷走神経が働いている証拠です。

この神経がうまく働いている人は、社会的にも柔らかく、感情のコントロールが上手く、体の回復力(自然治癒力)も高い傾向があります。

🔁 3つの防衛反応の階層構造

ポリヴェーガル理論では、人の神経反応は次の3段階に分かれます。
上から「安全→警戒→絶望」の順にシフトします。

状態主に働く神経身体反応心の状態
🟢 安全・安心腹側迷走神経呼吸・消化が安定、表情が柔らかい落ち着き・つながり
🟡 警戒・戦う/逃げる交感神経心拍数上昇、筋緊張不安・怒り・焦り
🔴 絶望・フリーズ背側迷走神経低血圧、体温低下、無気力無感情・シャットダウン

つまり、ストレスを感じても「安全」に戻る力がある人は、腹側迷走神経がしっかり働いている人です。

💡 整骨院でできるサポート

施術の目的は、単に筋肉をほぐすことではありません。
触れ方・声かけ・呼吸のリズム・空間の雰囲気――
それらが“安全信号”となって腹側迷走神経を刺激します。

患者さんが「ここは安心できる」と感じた瞬間、筋肉の緊張がふっと抜け、体が整うのです。
まさに、整骨院の施術は神経レベルでの“安全回復”を促していると言えます。

💡腹側迷走神経を自力で回復させる方法(自律神経を整えるための実践ガイド)

ここでは、腹側迷走神経を回復させるための具体的な方法を紹介します。


🫁① 深い呼吸(とくに「長く吐く」呼吸)

呼吸は迷走神経を直接刺激できる数少ない方法のひとつです。
ポイントは「吐く息を長く」すること。
たとえば、4秒吸って→6〜8秒でゆっくり吐く。
これを1日数回でも意識して行うと、副交感神経のスイッチが入りやすくなります。


🧘② ゆっくりした動き

落ち着かなくなると、ついついやりがちなのが「びんぼうゆすり」
この「びんぼうゆすり」こそ、腹側迷走神経を刺激して落ち着きを取り戻そうとする動きなのです。

あと回転式椅子に腰かけて、無意味にくるくる回ったり、ハンモックやロッキングチェアなどもおすすめです。

多動症の動きも、腹側迷走神経を活性化し、自律神経のバランスをとるためだとも言われています。

激しい運動ではなく、「気持ちいい」と感じるくらいの動きが効果的。
ヨガや太極拳のような、ゆっくりとした動きは呼吸と連動し、迷走神経を穏やかに刺激します。


🎶③ 声・ハミング・笑顔

腹側迷走神経は「顔の表情筋」や「喉の筋肉」と深くつながっています。
そのため、声を出したり、歌ったり、ハミングしたりすることが有効。

「人と話す」「笑う」「歌う」など、ポジティブな声の活動はすべて神経を整える行為です。


🤝④ 安心できる人とのつながり

ポリヴェーガル理論の中核となる考えは、「安全なつながりが人を回復させる」ということ。
信頼できる人との会話、やさしいスキンシップ、安心できる環境に身を置くことが、腹側迷走神経の回復を助けます。
整骨院で「この先生に任せたら大丈夫」と感じたとき、身体がゆるむのも同じ理由です。


💤⑤ 睡眠と体内リズムの安定

寝不足や生活リズムの乱れは、自律神経全体のバランスを崩します。
規則正しい睡眠と、朝の日光を浴びることも、腹側迷走神経を回復させる基本です。

🪷 まとめ

  • 背側迷走神経 → 「危険」から身を守るために動きを止める神経
  • 腹側迷走神経 → 「安全」を感じたときに体と心を整える神経
  • 交感神経 → 「戦う/逃げる」ための緊張モード

自律神経を整える鍵は、「安全を感じる時間を増やすこと」です。
安心できる人・空間・触れ方・言葉――
それらが、あなたの迷走神経を通して心身を癒やしてくれます。